
花は人間に向かって香っていない — 送粉者が決めた匂いの設計
香水になる花の多くは夜に開き、夜に匂う。その時間割は人のために組まれたものではない。ダーウィンが予言した蛾から、白い花の艶の正体である糞便の分子まで、花の香りが誰に宛てて書かれているかをたどる。
Journal / Learn
香りの仕組み、歴史、調香の技法、評価の方法まで。読む順番のあるコースと、テーマ別の記事から選べます。
Perfume Basics
濃度の違い、付ける量と位置、自分に合う一本の選び方。はじめの一歩をまとめています。
1本の記事
Fragrance Notes
トップ・ミドル・ラストの移ろいと、シトラスからウッディまでの香調ファミリーの見取り図。
準備中
Ingredients
ベルガモット、イリス、ウード。一つひとつの香料の成り立ちと、香水の中での役割。
準備中
Origins
気候、土壌、収穫の時期。同じ植物でも産地が変われば香りが変わる理由。
1本の記事
Extraction
水蒸気蒸留、溶剤抽出、超臨界。香りを取り出す技術と、それぞれが得意とする素材。
7本の記事
Perfumery
アコードの組み立て、ピラミッドの設計、素材の対話。調香師の設計思考をたどります。
1本の記事
The Science of Scent
分子のかたち、嗅覚受容体、脳での処理。なぜそう感じるのかを科学の側から。
1本の記事
History
古代の薫香から、アルデハイドの発明、現代のニッチまで。香りがたどってきた道。
1本の記事
Wearing & Care
季節と場面の選び方、レイヤリング、保管。手持ちの一本を長く楽しむために。
2本の記事
Analysis
評価データ、GC-MS、官能評価。数字と手法から香りの傾向を読み取ります。
1本の記事

香水になる花の多くは夜に開き、夜に匂う。その時間割は人のために組まれたものではない。ダーウィンが予言した蛾から、白い花の艶の正体である糞便の分子まで、花の香りが誰に宛てて書かれているかをたどる。

人の鼻で働く嗅覚受容体は約四百種。この数で膨大な匂いを扱えるのは、一つの受容体が一つの匂いに対応していないからである。組み合わせで読むという解法と、それが生む「慣れて感じなくなる」という副作用。

ガスクロマトグラフにかければ、香水の成分は一覧になって出てくる。ところがその一覧を読んでも、どう香るかは分からない。ピークの大きさと匂いの強さが、まったく比例しないからである。だから分析の出口には、いまも人の鼻が座っている。

香水の説明に並ぶ「アンバー」「フゼア」「シプレ」。これらは香料の名前ではない。複数の素材が溶け合い、もとの素材が聞き分けられなくなったときにだけ与えられる名である。調香師が素材ではなくアコードで考える理由。

香りは単体では持ち歩けない。何かに溶かすか、燃やすかしなければならない。香水の歴史を「香料そのもの」ではなく「香りを運ぶ乗り物」の側から眺めると、なぜ現代の香水がアルコールの液体なのかが見えてくる。