南インド・カルナータカ州の森林局には、白檀を売るための等級表がある。九キロを超える無傷の丸太が第一級で、以下、短い材、根、洞のある材と下っていき、最後の第18級は「おがくず」だ。製材のときに落ちた粉にまで公定価格がつき、2010年度の値は1トンあたり75万ルピーだった。

それほどの木である。サンダルウッドの精油は、甘く、乳のようにまろやかな木の香りを持ち、ほかの香料を肌に長く留める保留剤としても重宝されてきた。インドのアッタールは、花の香りを白檀の油に移して作る。需要は古代から一度も途切れていない。ところが、チークにもユーカリにも植林地があるインドで、白檀にだけは、まとまった植林地がひとつも作られなかった。なぜ、これだけ高価な木を、だれも植えなかったのか。

王の木になった日

1792年ごろ、マイソール王国を治めていたティプー・スルタンは、白檀を「王の木」と宣言し、その取引を国の独占にした。この決まりは、のちのマイソール藩王たち、そして独立後のカルナータカ州政府へと、200年あまり引き継がれる。1864年に伐採と販売は森林局の管轄になり、1898年には冒頭の18等級が定められた。独占が意味したのは、どこに生えていようと木は王のものだ、ということである。自分の畑に芽を出した白檀でも、農民は伐ることも売ることもできなかった。

この独占は、思いがけない副産物も生んだ。第一次世界大戦で欧州向けの輸出が止まり、1914年度に売りに出された1313トンの白檀のうち、買い手がついたのは70トンだけだった。1916年、ベンガルールの森林局を訪れた藩王クリシュナラージャ・ウォデヤール4世は、積み上がった売れ残りを目にして、木のまま売るのをやめ、油にして売ることを思いつく。インド理科大学院の化学者サドボローとワトソンが最初の蒸留に成功し、その年のうちに蒸留所が動きだした。翌1917年にマイソールへ移ったこの工場が、のちに世界の調香師が基準にしたマイソール産サンダルウッドオイルの出どころである。

香るのは芯だけで、芯は待たないとできない

白檀が厄介なのは、木の全部が香るわけではないことだ。香りを持つのは幹の中心にできる黄褐色の心材だけで、外側の白い辺材にも、葉にも樹皮にも匂いは無い。精油は心材を粉にして水蒸気蒸留で採り、インド白檀なら木一トンから45〜50リットルほどになる。等級表に根の区分が3つもあるのは、油を含む心材が地面の下まで続いているからだ。

輪切りにした白檀の材。中心の黄褐色の心材を、白っぽい辺材が輪のように囲み、まわりに削り屑が散っている
値がつくのは中心の濃い部分だけ。外側の白い材は、どれだけ太くても香らない。

その心材が、なかなかできない。白檀が商売になる太さに育つには27〜30年かかると、1894年にはもう記録されている。しかも白檀は半寄生植物で、若いうちは自分の根をまわりの植物の根に食い込ませ、水と養分を分けてもらって育つ。この性質が報告されたのは1871年のことだ。白檀を植えるとは、宿主になる木も一緒に植え、30年先の買い手を信じることを意味する。

心材香る辺材外側は香らない白檀宿主吸根水と養分を分けてもらう
白檀の二つの厄介さ。香るのは芯だけで、その芯を育てるには根を貸してくれる隣人が要る。

病気もあった。1899年にクールグ地方で見つかったスパイク病は、葉を細く縮れさせて木を枯らす。マイソール政府は1903年、治療法を見つけた者に1万ルピーの懸賞金をかけたが、100年以上たったいまも受け取った者はいない。1903年から16年のあいだに、感染を止めるため、マイソールで70万本、クールグで35万本の白檀が薬剤で枯らされた。

守るための独占が、植える理由を消した

ここで冒頭の問いに戻れる。30年待たなければ収穫できず、宿主の世話が要り、病気の危険がある。そのうえ育て上げても、木は自分のものにならない。これで植える人はいない。王の木は、森に自生するぶんを役所が伐って売るだけの資源になった。

値段が上がれば、残るのは密伐である。2012年にベンガルールの木材科学技術研究所の研究者たちが科学誌『カレント・サイエンス』にまとめた総説は、白檀が減った最大の原因を密輸と断じている。カルナータカ州で押収された密輸白檀は、1999年度の76.75トンから、2010年度には3.52トンに減った。取り締まりの成果でもあるが、総説はもうひとつの理由を挙げる。伐るに値する太さの木が、もう森に残っていない。

数字は静かに崩れていった。1950年代に年4000トンほどあったとされるインドの白檀生産は、近年は400トン前後と見積もられている。国際自然保護連合 (IUCN) は1990年代の終わりに、野生のインド白檀を絶滅のおそれがある「危急」種に分類した。代々白檀を彫ってきたカルナータカの職人たちには、州の公社を通じて年100トンの枠が定められているが、総説が記録した実際の配分は0.74トンだった。

カルナータカ州が2001年、タミル・ナードゥ州が翌2002年に森林法を改め、「土地の占有者は、その土地にある白檀の木に法的な権利を持つ」と明記したとき、ティプー・スルタンの宣言から200年以上が過ぎていた。木を守るはずだった独占は、木を育てる人を1人も生まなかった。いまインドは白檀の輸出を禁じ、国内の需要を満たすためにオーストラリアから白檀を輸入する企業まであるという。

跡を継いだのは、分子と、別の大陸の農園だった

香料会社は、森が空になるのを待っていなかった。最初の代替分子サンデラは1947年、ジボダンの研究所で偶然に見つかっている。1970年代にはジボダンのサンダロアと IFF のバクダノールが広まり、その後さらに力の強い分子が続いた。

その転換点に立つ香水が、1989年のゲラン「サムサラ」だ。調香はジャン=ポール・ゲラン。ジャスミンとイランイランの花を、サンダルウッドとバニラで包んだ構成として公表されている。ヴェルサイユの香水保存機関オスモテークによれば、サンダルウッドが処方の26パーセントを占め、同時に、フィルメニッヒの合成分子ポリサントールが初めて使われた香水でもあった。天然の白檀を惜しみなく使えた最後の時代の1本が、次の時代の分子を最初に迎え入れていたことになる。

1996年にジボダンが特許を出願したジャバノールは、この系譜のひとつの到達点である。同社の資料は、処方の0.1パーセントに満たない量でもクリーミーな厚みが出て、試香紙の上で1か月以上残ると説明している。少量で足りるということは、伐らずに済む木がそれだけ増えるということでもある。

木そのものを継いだのは、インドではなくオーストラリアだった。西オーストラリア州の北の端、オード川流域のカナナラで、現在クインティスと名乗る会社がインド白檀の商業植林を始めたのは一九九九年。インドが法律を改めるより早い。2022年の植え付けでは、327ヘクタールに白檀16万5000本と、宿主の木47万6000本が手で植えられた。白檀1本につき、根を貸す木がおよそ3本要る計算になる。

赤茶色の土の上に、細い幹の若い白檀と、葉の茂った別の種類の木が交互にまっすぐな列をなして植えられた乾いた土地の植林地
白檀は単独では育たない。列に混じる別の木は日よけではなく、根を貸す宿主である。

ただし、植えれば済む話でもなかった。収穫までは15〜20年。オーストラリアの調査では、14年たっても心材を作らない木が二割あった。最初の収入まで15年かかる事業は資金が続きにくく、クインティスは大口契約の解消をきっかけに、2018年1月に経営破綻する。同年10月に1億4500万豪ドルの資本注入を受けて再建され、いまは約1万2000ヘクタールを管理する世界最大のインド白檀農園になったが、2022年の植え付けは2017年以来、5年ぶりの新しい苗だった。白檀を育てることは、いまも賭けである。

農園の木は、すでに香水の名前になっている。マティエール プルミエールの「サンタル オーストラル」(2019年) は、調香師オーレリアン・ギシャールがオーストラリア産サンダルウッドを主役に据え、トスカーナ産アイリスとアーモンドミルクのアコードで白い木の滑らかさを引き出した香りとして公表されている。産地を名前に掲げること自体が、この木の来歴を隠さないという態度になっている。

反対に、失われた産地を名に残す香水もある。セルジュ・ルタンスの「サンタル ドゥ マイソール」(1991年) だ。ブランドの紹介文は白檀を、吸血鬼のようにまわりの木の切り株へ根を差し込む木として描き、スパイスの莢を思わせる温かい香りが肌の上で濃く広がると述べる。半寄生という植物学の事実が、ここでは香りの物語になっている。

2020年7月には、BASF と傘下のイソビオニクスが、欧州産トウモロコシのでんぷんを発酵させて作るサンタロールを発売した。白檀の香りの本体にあたる分子を、木を介さず微生物に作らせる。王の木は、ついに木である必要もなくなりつつある。

ノート欄の「サンダルウッド」インドの森ほぼ途絶別の大陸の農園1999年〜合成の分子1947年〜発酵で作る分子2020年〜
同じ一語が、いまは四つの出どころを指しうる。最初のひとつだけが、ほとんど残っていない。

この記事で触れた香料

森からは、もう来ていない

香水のノート欄に「サンダルウッド」とあるとき、その一語はもう一つのものを指していない。オーストラリアの赤い土で宿主と並んで15年を過ごした木かもしれないし、1947年の偶然から枝分かれした分子かもしれないし、発酵槽で生まれたサンタロールかもしれない。はっきりしているのは、王が守ろうとしたマイソールの森からは、ほとんど来ていないということだ。

守ることと、育てることは違う。200年の独占は、木を1本ずつ数え、等級をつけ、おがくずまで売ったが、次の1本を植える理由だけは、だれにも渡さなかった。いま肌の上で乳のように甘く香っているあの木の匂いは、その空白を、化学者と、15年先に賭けた農園が埋めた跡である。

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